漢字バカ200撰

漢字が好きなので、書と漢字の成り立ちから話を広げるブログ。広がらない時は、別のことを。

三流の玄人でも、一流の素人に勝る。

www.nhk.or.jp

再放送を拝見しました。

(なんか再放送ばっかだな、、、。)

 

でも、本放送も以前観ていて、もう一度観たかったのです。

 

北斎は、これは伝説なのかもしれませんが、

一流を目指して、北辰妙見菩薩に願掛けを行っていたそうです。

 二十一日目のお勤めを終えた帰り道、

突如現れた雷光に撃たれて、畑に転がり落ちたそうで、

そのあくる日から、絵が売れ始めたのだとか。

その後、北斎辰政」と名乗り、

北斎」という略号を使ったそうです。

このブログのURLも、hokushin-myoukenとありますが、

その理由は、こちらに以前書かせていただきました。

 

www.hokushin-myouken.com

もし、ご興味を持っていただけたならば、どうぞお立ち寄りくださいませ。

 

さて、今日のドラマは、北斎の娘、「お栄:葛飾応為」のお話。

ストーリーは、ぜひ、NHKオンデマンドでご覧ください。

 

 

ともかく、目を見張る美しい映像でした。

 

一本一本の細い、骨書きと呼ばれる華奢な線だけではなく、

紙の繊維まで克明に映し出され、まるで、

這わせる筆の擦れる音まで聞こえてきそうです。

演者の肌の質感、表情を作り出すしわの曲線。
物語全体が立体的に伝わってきました。

 

そんな美の表現の中に宿る、北斎とお栄の作家としての苦悩。

中でも、もっとも僕が心を撃たれたのは、

 

「たとえ三流の玄人でも、一流の素人に勝る。

なぜだかわかるか。こうして恥をしのぶからだ。

己が満足できねぇもんでも、歯ぁ喰いしばって世間の目に晒す。

やっちまったもんをつべこべ悔いる暇があったら、

次の仕事にとっとと掛かりやがれ」

そんな北斎のセリフでした。
本放送を観た時には、このセリフがあったかもわからなかったのに、

今日この日に、観ることができた自分は幸せだと感じました。

 

僕は、書く仕事をしています。

一度ならず、何度も世間の目に晒して生きてきたわけですが、

ここ最近、このセリフとは別の「余計な恥」が気になって、

書く気力を失いつつありました。

 

けれども、書きたいという気持ちは抑えることができず、

悶々と日々を送っていたのです。

 

僕は、三流かもしれません。

けれども、素人ではない。

しかし、書くことをやめてしまえば、

素人でさえなくなってしまう。

 

自分の納得いくものが、観る人へ同じように伝わると考えるのは、

おそらくは大変なエゴで、

自分の納得いくものだけを書いて、多くの人に受け入れられたい。

というのは、思い上がりもいいところなのだな。

北斎が死ぬまで、「上手くなりたい。本物になりたい。」

と願い、妙見菩薩に祈ったのは、

どこまでも一作家として、

制作に対して謙虚だったからなのではないかと、

そう深く深く、反省させられました。

 

世の中には、いろいろな仕事の表現があります。

仕事、ビジネス、商売、商い、生業。

そして、否応なく、

人、モノ、金。
が必要になってきます。

それに抗っても仕方がない。

この時代にまずは生きているし、この生まれ落ちた時代こそが、

自分の戦場なのだから。

「家」とつく職業は、仕事ではなく、生き様だ。

と、誰かが言っていたように、

そんな生き方を貫いてみてもいいんだな。

 

そんな、鮮明な輪郭を持った希望を与えてもらった作品でした。